見直そう 青の時代!—ベートーヴェン生誕250周年記念シリーズ第1回

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ベートーヴェン 1783年 肖像画 生誕250周年
13歳のベートーヴェンと思われる肖像画(ボンの研究機関「ベートーヴェン・アルヒーフ」は認めていない)をモチーフに、今回のテーマに沿って、18世紀のボンを描いた絵や私の落書きをコラージュしてアイコン作りました。
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巻頭言

まさかのコロナ禍で、今年の主人公は寂しがっているのだろうか?
それとも今までも散々祝ってきてもらったから、「正直もう、よい!」と照れているのだろうか。

残り半年となった、この歴史的な2020年と「生誕250周年ベートーヴェン・イヤー」

喜んでいるのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、天上の楽聖の気持ちはわかりませんが、私もささやかながら特集シリーズ全20回を組んで、遅ればせながらのお祝いをしたいと思います。

1770-1785年ボン時代

さて初回の今日は、彼が最初に作曲を始めた生地ドイツのボン時代、少年期時代(15歳まで)から始めたいと思います。

なぜそんな若書きの頃を取り上げるのか?と思われる方もいるかもしれませんが、今日はその若書き=未熟というイメージを捨ててもらうために筆をとったようなものです。

ボン時代の彼は同時代の様々な作曲家の作風を吸収しながら、卓越したピアノの演奏技術をもとに、傑作を産む原石としての素質が培われたのであります。

今回はそのボン時代の名曲と気になっている録音盤を紹介したいと思います。

デビュー曲!

「今やネーフェ氏は少年に作曲の勉強をさせているが、ある行進曲――エルンスト・クリストフ・ドレスラー作――を主題としてピアノフォルテのために作曲した九つの変奏曲を、奨励のためマンハイムで出版させるはこびになった。この若き天才は、ネーフェ氏の旅行中その代理をする能力をもっている。このままをつづけていくとすれば、必ずや第二のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトになることだろう」

《音楽雑誌マガッツィーン・デア・ムジーク》1783年2月2日付 クリスティアン・ゴットローフ・ネーフェ

「この作品は現在知られている限りでベートーヴェンの最初の作品であり、初めて出版された作品でもある」

「ベートーヴェン事典」東京書籍

ドレスラーの行進曲による9つの変奏曲 WoO63
作曲:1782年中と推定
出版:1782年ないしは1783年の早い時期にマンハイムのゲッツ社

12歳のベートーヴェンが書いた最初の作品になります。

ちなみにドレスナーは当時作曲家でもあり、テノール歌手としても高名だったようですが、この変奏曲のもとになる行進曲の正体はわかっていないようです。

WoO63 ベートーヴェン ドレスラーの行進曲による9つの変奏曲 初版 表紙
マンハイムのゲッツ社から出た際の楽譜の表紙

才能の片鱗

さてこの曲、主題はともかくとして、変奏は一種のぎこちなさというか幼さがあるのは否めませんが、後半にいくほど技巧的になっていき、楽想の変化に大胆さがあるなど既にその才能の片鱗が伺えられます。
またこの曲の主調がハ短調という後年好んで使った調性で、最後の変奏でハ長調に転じるあたりもなかなか象徴的です。

この曲では、やはり幼い作曲家も使ったであろう時代楽器で聴きたいものです。
時代楽器でベートーヴェンのピアノ曲全曲録音を果たしたロナルド・ブラウティハムがオススメなのですが、この録音のちょっとした欠点は作曲家の意思に反して変奏の反復を無視していることでしょうか。

「楽譜に指定された繰り返しを守るのは演奏家として当然のことだ」

スヴェトスラフ・リヒテル

以下はミヒェエル・プレトニョフの演奏によるものでスコアを見ながら視聴できるので挙げておきました。ただしこちらも反復を省略した形で演奏されています。

ボン時代の傑作!

さて次にボン時代のベートーヴェンの際立った才能を感じる名曲を紹介したいです。

3つのクラヴィーア四重奏曲(1番変ホ長調・2番ニ長調・3番ハ長調)WoO36
作曲:1785年
出版:1828年末 ウィーンのアルタリア社(パート譜)

ベートーヴェン15歳の作品ですが、その愉悦感が絶品です!

とにかくまず3番ハ長調から聴いてみてください。モーツァルトの音楽を彷彿させるものはありますが(実際楽章の構成は彼のヴァイオリンソナタを参考にしていることが指摘されています)、しかしその模倣ぶりは堂に入っており、緩徐楽章などはモーツァルトを離れて紛れもなくベートーヴェンのそれを感じます。

アルゲリッチも弾く魅力的な作品!

以下は何と!アルゲリッチがピアノを務めている第3番ハ長調の映像です。彼女はこの曲の録音も残しており、よっぽど気に入っていると思われますが、それも納得できるほど素敵な曲です。

ベートーヴェンの先進性!

安田和信氏もこの3つの曲に対してこう指摘しています。
「『全声部のオブリガード化』とも言うべき様式によるピアノ四重奏曲を十五歳のベートーヴェンが作曲していたことに驚きを禁じ得ない」

つまり当時のピアノ付きの室内楽曲というのはピアノがあくまで主人公であり、その他の楽器は省いていても差し支えのないような書法で書かれるのが一般的だったのです。それを破った例外としてモーツァルトの2曲のピアノ四重奏曲があるのですが、それは平たく言うと常にプリマドンナだったピアノが時に伴奏へ回り、他の楽器が歌い始める曲を作ったということです。

それを、ほぼ時を同じくしてベートーヴェンがモーツァルトより若い年齢でこの先進性を実現していることに、安田氏は驚嘆しているのです。

実際、3番ハ長調で言えば2楽章でヴィオリンとヴィオラが美しい旋律をリレーしたり、1番3楽章ではチェロも主題の変奏として旋律を歌います。

ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲WoO36第3番 第2楽章 第14小節〜23小節
ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲WoO36第3番ハ長調 第2楽章 第14小節〜23小節
ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲WoO36第1番変ホ長調 第3楽章 第69小節〜72小節
ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲WoO36第1番変ホ長調 第3楽章 第69小節〜72小節

チェロが独立して活躍するのは、元セロ弾きとしては嬉しい発見であると同時に、この3曲の四重奏曲で絃楽器がピアノと対等に大いにお喋りするというのは、大変充実した曲であることの証拠であると思うのです。

生涯最後まで保管していた作品!

ちなみにこの自筆楽譜は現存しているのですが(プロイセン文化財団国立図書館)、なんとそれはベートーヴェンの遺産の中から発見されたものです。つまり彼はボンを離れる際にこの曲を携えていたという証拠であり、それを後生大事にしていたという事でもあります。
彼がこの曲にある種の自負を感じていたのではないかと思いたくなります。

アルゲリッチ達の愉悦感たっぷりの演奏!

しかし、3番の3楽章の弦楽器のピッチカートに乗って、アルゲリッチのピアノが駆け巡るその愉悦感ときたら!

ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲WoO36第3番ハ長調 第3楽章 第46小節〜52小節
ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲WoO36第3番ハ長調 第3楽章 第46小節〜52小節

以下は2005年ルガーノ音楽祭でアルゲリッチ&仲間達との演奏を収録したアルバムですが、こちらにこのWoO36の3番ハ長調が収録されています。

以下はWoO36の3曲全てを収録したメレト・リュティ(ヴァイオリン)、朝吹 園子(ヴィオラ)、アレクサンドル・フォスター(チェロ)、
レオナルド・ミウッチ(フォルテピアノ)による古楽器による初録音アルバムです。
このピアノ四重奏曲にはエッシェンバッハ&アマデウス弦楽四重奏団という凄い組み合わせの録音もありますが、正直このフレッシュな曲には見合わない生真面目さがあり、私は好みません。
リュティらの演奏は楽想に応じてアゴーギクを揺らし、時にどキツいまでの表情を見せる表現主義的な演奏で大変ユニークです。

ドレスナーの変奏曲もこの3番のピアノ四重奏曲もハ長調で終わるということで、いかにもベートーヴェンに相応しい終わり方。
今日はこの辺までにしましょう。

是非みなさん!
ベートーヴェンの青の時代を見直してみましょう!

この記事を書いた人
耳澄(みみすまし)

古今東西の映画、クラシック音楽、芝居、絵画など芸術一般とお酒にグルメ!カメラ撮影、小沢健二、蕎麦、バウハウス、庭園、宮殿、有職故実、フランスバロック、水墨画、坂本龍一、運河、滝、橋、古いテクノ、雨。

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