九州交響楽団 第403回定期演奏会
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九州交響楽団 第403回定期演奏会

2022年5月19日(木)福岡サンパレス ホテル&ホールにて開催、九州交響楽団 第403回定期演奏会の公演記録とレビュー/コメントのアーカイブページです。

公演日(初日) 2022年5月19日(木) 19時00分開演
会場 福岡サンパレス ホテル&ホール
出演 指揮:藤岡幸夫
ピアノ:チェ・ヒョンロク
ソプラノ:半田美和子
管弦楽:九州交響楽団
演目 ヴォーン・ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調
ヴォーン・ウィリアムズ:田園交響曲(交響曲第3番)
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P.D.Q.ホフマン

まず、プログラムノートに対して謝辞を述べたい。堀朋平氏による簡明かつ読み応えある解説から、小生は多くを学ぶことができた。恥ずかしいことだが、もしかするとRVWの実演に触れたのは誰かのアンコール曲『揚げひばり』程度しかなかったかもしれないという小生にとっては、最高のガイド役となってくれた。左手コンチェルトの解説には度々目を通してきたと記憶しているが、この種の限られた字数での解説文としては(RVWへの記述の興味深さがそう感じさせたのか)今までで一番面白く読めたように思う。

一曲目の弦楽合奏曲『トマス・タリスの主題による幻想曲』は、弦楽四重奏を中心として左右に二組の弦楽合奏を従わせるというイメージで書かれたようだが、演奏会場でそのように配置することは難しい。したがって、できるだけカルテットが中心となるように12型の弦楽奏者を配置し、木管の位置にも2-2-2-1で弦楽セクションを追加配置する、という形だった(記憶違いがあれば申し訳ない)。そのためか、三層構造として聴こえる、というよりは、中心と周縁がグラデーションを描くように差異を示す、という印象を小生に与えた。また、カルテットのメンバー(ひときわ拍手を集めていたのはVa.だった)が聴き物だったのは(曲の構造上、そしてオケの人選上)当然であったとして、追加セクションの弦楽メンバーも大変良かった。客演者も含まれていたであろうが、複数のプロオケが競合する地域ではなかなか聴けないのではないかと思わせる、個々のレヴェルの高さと、全体の見事な調和を感じさせてくれた。

本日の演奏会は、何より全体のハーモニーの見事さに唸らされた。各セクションのトップのソロが聴き物なのと同時に、しっかりと「音が溶け合う」感覚を味わうことができたのだ。

同RVWの『田園交響曲』では、上記の美しい弦楽セクションに加えて、やはり高い技量を備えたコールアングレやホルンが、自分たちの技量を誇るという様子でもなく、全体に溶け込むようにソロを披露してくれる。目立ちすぎないように、されど、しっかりと動機を提示するティンパニ。率直な感想をいうと、これほどまで端正な英国音楽が聴けるとは予想していなかった。藤岡氏のキャラクターから、もっと力みすぎた、細部へのこだわりが強い音楽を予測していたのだ。(昔聴いた日本フィルとの演奏もそういう具合だった) そのモノフォニックな響きは、尾高忠明が指揮するエルガー1番のようだった。油絵ではなく水彩画的演奏、だが、しっかりと塗り重ねられた力強いタッチだ。

終楽章のソプラノによるヴォカリーズは、3階席辺りから歌われた。1階席の中央からは、どこか乾いたような歌声に聴こえたが、距離の問題か、解釈か、あるいは歌手のコンディションか。敬虔な祈りの声として聴くこともできる。

プログラムノートを読むと、この日のプログラムが、第一次大戦への密かな鎮魂で繋がれていたことが分かる。それとともに、なるほど旋律的には、ラヴェルとRVWにも似通ったところがあったのか、と感じさせる場面もあった。しかし、それにもかかわらず、ラヴェルとRVWは決定的に異なる個性の持ち主であったことを認識させられた。ラヴェルはもっとカラフルな音を要求して曲を書いたと感じた。

ソリストはラヴェルをまるでプロコフィエフのように弾いてしまうという大変風変わりな演奏を披露してくれた。プロコやリストが好きな人にはたまらなかったろう。

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